河野太郎が「年末調整廃止」を提案。これはサラリーマンにとって是か否か?
毎月の給与明細、きちんと見てる?
税金と聞いて、何を思い浮かべるだろうか? サラリーマンにとっては、毎月の給与明細を見て「あれ、けっこう引かれてるな」と思う程度のものかもしれない。
源泉徴収、年末調整、確定申告といった言葉を聞いても、詳しく理解している人は少ないのではないだろうか。ほとんどの人は、「面倒くさい手続きを会社が代わりにやってくれるから助かる」と思っているにちがいない。
だが、そんな日常の平穏に、河野太郎が大きな波紋を投じた。彼の提案によれば、現在の年末調整を将来的に廃止し、全国民が自分で確定申告することを目指すという。これが実現すれば、日本のサラリーマンは全員、税金計算を自分で行い、毎年一度、税務署に足を運ぶことになる。
いわば、「税金のプロ」となることを強制されるようなものだ。あなたは「そんな面倒なことはしたくない」と思うだろうか? それとも「自分のお金は自分で管理すべきだから当然」と考えるだろうか?
税制改革はいつも政治の話題に上るが、今回の河野氏の提案は特にサラリーマンにとって身近であり、かつ重要なテーマだ。
そこで、現行のシステムである源泉徴収、年末調整、確定申告について、その歴史的・政治的背景も踏まえつつ、河野太郎の提案がどのような意味を持つのか、しっかりと掘り下げてみよう。
源泉徴収は勝手に税金が取られる乱暴なシステムだ
まずは、源泉徴収だ。サラリーマンの給料から毎月自動的に税金が差し引かれるこの仕組みは、日本において多くの人が経験しているものだ。だが、その裏には「乱暴な前払い」という性質が隠されていることを覚えておいたほうがいい。
源泉徴収では、前年の収入をもとに「今年もこれくらい稼ぐだろう」という見込みで税金が計算され、あらかじめ徴収される。そして、もし、収入が増えれば年末に追加で徴収されるし、減れば年末調整で払いすぎた分が戻ってくるというわけだ。
このシステムは、1940年、戦時中に導入されたもので、国が戦費を集めるために効率的に税を取り立てる必要があったからだ。「国民が自分で税金を納めるなんて信用できない」というわけで、給与から自動的に天引きする制度が作られたのだ。
ちなみに、天引きのことを「お上とか国が徴収すること」だと思っているかもしれないが、この「天」とは「最初から」とか「始めから」という意味。 給料を受け取るとき、最初から差し引かれるものだから「給与天引き」ということになる。
この天引き、すなわち源泉徴収は戦時下の必要性から生まれたものだが、それがそのまま現代まで続いている。国は、「とにかく早めに金を取っておこう」という姿勢なわけだ。
俺も若い頃は海外で働いていたことがあるが、世界的には自分で税金を計算して申告する「申告納税制度」が主流だ。アメリカやフランス、イギリスなど、世界の多くの国では、年に一度、自分で税金を申告し、精算するのが普通となっている。
源泉徴収制度を取っているのは、日本、ドイツ、インド、韓国などほんの一部の国だけだ。そう考えると、自分の収入から毎月自動的に税金が引かれて黙っている日本の国民性というのは、他の国からすればちょっと不思議に見えるかもしれない。
年末調整はサラリーマンの税金の返金なのか?
次に、年末調整の話をしよう。これは源泉徴収で「見込み」で取っていた税金の帳尻合わせだ。「年末調整」といえば聞こえがいいが、要は「取り過ぎてた税金の調整」だ。
取り過ぎた分があれば年末に返金され、不足していれば追加徴収されるというシステムで、サラリーマンにとっては「年末にちょっとしたお金が戻ってくる」機会でもある。だが、これも厳密に言えば、税金の「返金」ではなく、単に過剰に取られていた分が返されるだけだ。何も得したわけではない。
年末調整では、生命保険料や住宅ローン控除などを申請することで税額が調整される。会社が代わりに手続きをしてくれるため、ほとんどのサラリーマンは自分で税金の計算をする必要がない。だが、こうやって、税金についての意識がどんどん希薄になっていく。
ただ、年末調整では対応できないケースもある。たとえば、ふるさと納税や医療費控除などは年末調整では処理されないため、別途確定申告が必要となる。
そう考えると、確かに河野氏の「全員が確定申告をする」という提案は合理的な面がある。確定申告に統一すれば、年末調整の二重手間が解消され、サラリーマンも控除の申告を一度に済ませることができるからだ。
確定申告はどんな時に必要で、何をするのか?
確定申告とは、自分で収入や経費、控除を計算し、税務署に申告する作業だ。フリーランスや自営業者、副業をしている人にとってはおなじみの作業で、毎年必ずやらなければならない。
具体的には、1年間の所得、経費、医療費控除や寄付金控除といった各種控除を記載した書類を税務署に提出し、税金の精算を行う。申告の結果、払いすぎた税金は返金され、逆に不足していれば追加で支払うことになる。
確定申告が必要な場合としては、たとえば以下のようなケースがある。
- 給与以外の収入がある場合(副業やフリーランスの仕事)
- 年収が2,000万円を超える場合
- 複数の勤務先から給与を受け取っている場合
- 医療費控除や寄付金控除(ふるさと納税など)を申告する場合
- 住宅ローン控除を初めて適用する場合
前述したとおり、ほとんどのサラリーマンは会社が年末調整を行ってくれるため、自分で確定申告をする機会は少ない。
しかし、河野氏の提案が実現すれば、全国民が毎年自ら確定申告を行い、税務署に書類を提出することになる。理論的にはすべての控除や所得を一度に管理でき、合理的な面はある。だが、問題は多くの国民が確定申告をしたことがなく、慣れていないことだ。
確定申告は簡単な作業ではない。フリーランスや自営業者でも、毎年のように書類に追われ、税務署に通うことを嫌がる人が多い。これをすべての国民に強制するとなると、税務署側の負担も相当なものになるだろう。
年末調整の廃止で、企業は本当に楽になるのか?
河野氏は「年末調整を廃止することで企業の負担が軽減される」と主張している。確かに、企業にとって年末調整は手間がかかる作業で、特に中小企業では総務や経理部門が限られたリソースで対応しているため、負担が大きい。
しかし、年末調整がなくなることで、企業の負担が完全にゼロになるわけではない。それに、すべての社員が確定申告を行うようになると、今度は「確定申告のやり方を教えてくれ」といったサポートの負担が企業に押し寄せる可能性がある。
また、これまで企業が年末調整を通じて把握していた社員の税務情報がなくなることで、企業内での労務管理や税務リスクに新たな課題が生じるかもしれない。企業の手間が減るかどうかは、単に年末調整をなくすだけでは解決しない複雑な問題だ。
一方、これを推進することになる国税庁はどうだろう? 河野氏が提案する「全国民が確定申告を行う」というアイデアは、国税庁にとっても大きな意味を持つ。なぜなら、全ての国民が自らの所得を申告し、国がその情報をデジタルで一元管理するというのは、国税庁にとって非常に効率的だからだ。
この「デジタルセーフティネット」によって、国税庁は国民全員の所得状況をリアルタイムで把握できるようになる。これにより、税務の透明性が向上し、脱税や未申告といったリスクも減らせる可能性がある。さらに、所得情報が国のシステムに一元的に集まることで、国税庁は国民の収入をより正確に監視し、適切な支援や徴収ができるようになるかもしれない。
ただし、すべての国民が自ら確定申告を行うことで、国税庁が負う事務処理やシステム管理の負担は相当なものになる。デジタル化による効率化が進む一方で、その準備や対応には何年もの時間と、相当なコストがかかるだろう。
税制の合理化にはさまざまな問題がつきまとう
河野氏の「年末調整廃止」提案は、税制の合理化を目指したものだが、その実現には多くの課題がある。確定申告を全員に強制することで、税制の透明性や国民の税金に対する意識を高めようという狙いは理解できるが、それが本当に国民にとってメリットとなるかは疑問だ。
特に、これまで年末調整に依存していたサラリーマンにとっては、新たな負担が生じることは避けられない。また、国税庁にとっても、全国民が自ら確定申告を行う体制を整備するには、大きな変革とコストが必要になる。
デジタル化によって税制がスムーズに進むようになれば理想的だが、現実的には国民や企業、さらには国税庁にとっても、新たな問題や混乱を引き起こす可能性が高い。
結局のところ、この改革は誰のためのものか、そして本当に実現可能なのか――それを見極めることが今後の大きな課題だ。
